11月 23

公開講演・討論会のご案内 11月25日(日)
「研究不正と国立大学法人化の影―東北大学再生への提言と前総長の罪」

私(中井)は昨年から東北大、岩手大、福島大の、震災後の対応を取材してきました。
その過程で、東北大の前総長の井上明久氏の研究不正疑惑と、それへの内部告発を巡る学内の混乱を知りました。

私なりに、その研究不正と、学内の混乱の背景を考え、文章にまとめました。
その拙稿を第1章とした報告書『研究不正と国立大学法人化の影』が社会評論社から11月25日に刊行されます。
私以外の執筆者は東北大学の有志の先生方で、この問題の解決に向けて調査・研究をしてきました。その集大成の報告書です。

この出版を記念して、公開講演・討論会を開催します。関心のある方はおいでください。

以下、主催者「東北大学フォーラム」からの案内文です。
連絡や問い合わせなどは、主催者(以下に連絡先あり)に願います。

各位
標記の公開講演・討論会を下記要領で開催します。ふるってご参加ください。

趣旨
総合学術誌『ネーチャー』でも報道された、井上明久東北大学前総長の研究不正疑惑と大学運営における私物化問題は、東北大学関係者有志の5年にわたる徹底的な調査・研究によって究明され、その驚くべき全貌が克明に明らかにされた。研究不正と大学の私物化は、東北大学という一大学の問題ではない。日本の大学行政・研究費政策の歪んだ構造的背景に起因するものである。本年11月25日、東北大学有志によるこの問題の調査・研究を集大成した報告書が『研究不正と国立大学法人化の影』と題して社会評論社から刊行される。

同書では、
(1)2004年の国立大学法人化によって、研究資金をめぐる大学間、個人間の競争が政策的に強化され、研究不正発生の温床になったことが全国の豊富な事例によって明らかにされ、井上前総長による研究不正の隠蔽と大学私物化の背景には、法人化後出現した総長専決体制と、膨大な総長裁量経費、57億円超 ? この金額は、教育系の地方国立大学の年間運営費交付金はむろん、国立大学法人一橋大学の運営費交付金(56億5千万)を上回る ? の存在があったこと、またその経理に関する問題点が整理されている。

(2)約18億円の国費が投じられたJST(科学技術振興機構)の井上過冷金属プロジェクトの代表的研究成果27編の論文のうち、6編もの論文に データの改ざん・ねつ造が確認され、JSTに不正告発されたことが詳述されている。JSTは本年1月の調査報告でこの代表的研究成果27編の論文には問題がないとしていた。告発はこの調査報告の結論を正面から否定するものであるが、JSTはこの新規告発を正規に受理し、調査に乗り出していることが紹介されている。

(3)名誉毀損裁判で当初の原告の一人、横山嘉彦金属材料研究所准教授が、本年連休明けに提訴を取り下げ、大室弁護士らを解任したこと、いまやこの裁判は井上前総長一人を本訴原告、反訴被告として争われていること、最近、井上前総長は、裁判の準備書面で、不正がないと強弁していた1996年論文の自己矛盾を認めざるを得ない発言をしていること、等々、裁判の直近現況が詳細に明らかにされている。

(4)最後に、東北大学を代表する3つの付置研究所、金属材料研究所、電気通信研究所、多元物質科学研究所の元・前所長3名の名誉教授が、井上問題の深刻さを憂え、東北大学の再生のために、まず何をなすべきかを声明にしたが、この声明が全文収録されている。

本講演、討論会では、本書の核心をなすこうした4つの論点についての本書の編著者、寄稿者の報告をうけて、 報道関係者を含め、出席者との間で質疑応答を行い、問題解決の道を明確にする。

―記―
日 時 : 2012年11月25日(日) 15時 ? 17時30分
会 場 : 明治大学紫紺館(旧明治大学生協会館、リバティタワーの斜め向い側)
TEL.電話03-3296-4727
アクセス : http://www.meiji.ac.jp/koyuka/shikonkan/copy_of_shikon.html
JR御茶ノ水駅下車 徒歩5分、地下鉄神保町駅下車 徒歩5分

発言予定者 ?.「研究不正と国立大学法人化」(上記論点(1)) 日野秀逸(東北大学名誉教授)、中井浩一(教育ジャーナリスト) ?.「新たに発覚した井上の研究不正、名誉毀損裁判の最新現況」
(上記論点(2)(3)) 青木清(北見工業大学名誉教授、同元副学長)、松井恵(弁護士) ?.「東北大学再生への提言」(上記論点(4)) 齋藤文良(東北大学名誉教授、前多元物質科学研究所長) 矢野雅文(東北大学名誉教授、前電気通信研究所長) 鈴木謙爾(東北大学名誉教授、元金属材料研究所長) 司会:高橋禮二郎(東北大学元教授) 主 催 : 東北大学フォーラム
会 費 : 500円

連絡先:
松田健二(社会評論社代表):090-4592-2845
e-mail: matsuda@shahyo.com
大村泉(東北大学教授): 090-6459-1605
e-mail:iomura@econ.tohoku.ac.jp

11月 23

7月の読書会のテキストは『痴呆を生きるということ』(岩波新書847)でした。

その読書会の記録を、明日から4日に分けて、掲載します。

『痴呆を生きるということ』は感動的な本でした。
私の思いは、読書会の案内として、メルマガ(6月25日配信)の号外に、書きました。
読書会の記録の掲載の前に、再録します。

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◇◆ 人間そのものの本質に迫る本 『痴呆を生きるということ』 ◆◇

『痴呆を生きるということ』 (岩波新書847) 小澤 勲

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出版社/著者からの内容紹介

痴呆老人は,どのような世界を生きているのだろうか.

彼らは何を見,何を思い,どう感じ,
どのような不自由を生きているのだろうか.

痴呆老人の治療・ケアに20年以上携わってきた著者が,
従来ほとんど論じられてこなかった痴呆老人の精神病理に光をあて,
その心的世界に分け入り,彼らの心に添った治療・ケアの道を探る。

(アマゾンより引用)

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これは素晴らしい本です。
認知症という特殊な病を理解するために
大いに有効なだけではありません。

これは、人間そのものの本質に迫っている本なのです。

認知症を、外から理解する本は多数あります。
この本は、そうした本ではなく、
認知症をその内側からとらえようとするのです。

徹底的に患者本人に寄り添い、当人の心の世界を、
当人の側から理解しようとします。

彼らはどのような世界を生きているのか。
それを理解し、その世界をともに生きようとします。

この本は、認知症の人の世界を解き明かしただけではありません。
それを通して、すべての人間の本質、社会と家族との関係で
生きることの本当の意味を浮き彫りにします。

それほどの深さと広がりを持った本です。

最近、私の父が入院しました。

腰をいため、食事がとれなくなったからです。
そして入院生活の中で、認知症の症状がはっきりとわかりました。
約2年前から、認知症は進行していたようです。

私が気づくのが遅すぎました。しかし、そんなもののようです。

父と一緒に生活し、介護していた母も、父を認知症だとは思わず、
「寝ぼけている」とか、「意地が悪くなった」とかと、こぼすだけでした。

私の妻の母は20年ほど前から認知症で、
その義母との関係で私もそれなりに認知症を理解しているつもりでした。

しかし、そうではなかった。
直接の当事者か否かでは、それほどに違うようです。

今は、少子・高齢化社会です。
家族が認知症になり、その介護で悩み苦しんでいる方が
多いことと思います。

他人ごとではなく、また介護側としてだけではなく、
私たち自身が認知症になる可能性も高いのです。

本書をゼミの7月の読書会のテキストにし、認知症への理解を深め、
人間の本質を考えてみたいと思います。

最後に本書を読む上でのアドバイスを。

本書は、全体としてのまとまりが弱く、読みにくい部分があります。
特に本論である、3章?5章の関係、
特に3章と4章の関係がわかりにくいと思います。

一番大事で核心的なのは3章です。ここだけでも読めますし、
ここをしっかり読むだけでも、圧倒的に学べると思います。

3章と4章の関係については、本書の続編である『認知症とは何か』
(岩波新書942) を読むとわかります。

つまり、大きく言って、中核症状(4章)と周辺状況(3章)との
区別なのだと思います。
本書に感動した人には、『認知症とは何か』を併読することをおすすめします。