9月 21
8月29日に立花隆氏へのインタビューをし、8月30日に塩野米松氏と対談をした。いずれもテーマは「聞き書き」で、大修館書店のPR誌のためのものだった。
大修館書店は高校の国語教師を対象にPR誌『国語教室』を年2回ほど刊行している。その94号(秋の号)で 特集として「「聞き書き」の可能性」を組むことになった。
立花氏へのインタビューはその巻頭におかれる予定だ。塩野米松氏との対談は特集の柱の一つになる。
1 「雑誌記者」としての立花隆
立花氏は1990年代に東大の教養学部でゼミ生たちに「調べて書く」ゼミを3年ほど行った。その活動の大きな柱が「聞き書き」であり、それは『二十歳のころ』(新潮社文庫、現在はランダムハウス講談社文庫から出ている)にまとめられている。
「青春期をいかに過ごすかが、その後の人生を決める。
1960年から2001年に二十歳を迎えた多士済々41人に、東大・立花ゼミ生が切実な思いを込めてインタビュー。
これから二十歳になる人、すでに二十歳を過ぎた人、新たなチャレンジをしようとしている人全てに贈る人生のヒント集」。
こう出版社の紹介文にある。
この方針の意図、結果、その評価、課題などを聞くことが目的だった。
そのナカミについては『国語教室』を見ていただくとして、
立花氏については、1点気になっていたことがある。
以前から「知の巨人」といった評価があり、他方でそれへの強い批判もある。
実際はどうなのだろうか、という疑問だ。
インタビューで感じたのは、彼の本質は「雑誌記者」だということだ。文芸春秋で雑誌記者、雑誌編集者としてのあり方、能力を徹底的に鍛えられ、また新人を教育した。当時「鬼軍曹」といわれていたらしい。
それを、大学教育でも実践したのが、彼の東大での立花ゼミの教育活動だったようだ。
これが彼の本質だろう。そして、その後の彼の多様な活動は、すべてその基礎の上に、どこまでも自分の興味関心のママに、面白い対象を追求していった結果なのだと思う。(例外は田中角栄裁判の傍聴記録で、これは社会的使命感から行ったようだ)
彼の凄さは、その徹底ぶりにある。
つまり、立花氏にはもともと「知の巨人」といったところはないし、それをめざしてもいない。そういう人を「知の巨人」と持ち上げるのもバカげているが、それに反撥して、そうでないことを証明することにやっきになることも、虚しい作業だと思う。
7月 28
実践報告・実践記録の発表の場をつくりましょう
2011年3月で、『月刊 国語教育』誌が休刊になりました。
全国の中学・高校の国語科の先生方にとっては、この雑誌が唯一の実践を発表する場でした。それを失ったことで、途方に暮れている方が大勢いることを知りました。
私たち高校作文教育研究会は、年3、4回の例会と夏の全国大会で「報告と討議」の場を提供してきました。
そして、それに加えて、これまで年数回発行してきた機関紙を、実践記録を発表する場として提供することに決めました。微力ながら、『月刊 国語教育』誌が果たしてきた役割の一部でも引き受けようというわけです。
この体制をつくるために、秋から、機関紙の編集長は程塚英雄さんにお願いすることになりました。
程塚さんは、すでに、長い期間にわたって、こうした編集をしてきました。その程塚さんの力を得て、充実した実践記録集を年数回出していくつもりです。
程塚さんは、そのために、現在メールとパソコンの操作を学習しているところです。
私たちの会員になっていただければ、入会金2千円、年会費5千円で、実践報告と実践記録を発表する場を得られ、全国の実践家や研究者と交流することでできます。
この機会に、どうぞ会員になって下さい。
また、積極的に機関紙への投稿をお願いします。
高校作文教育研究会 代表 中井浩一
連絡先
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中井浩一
〒113?0034
東京都文京区湯島1?9?14
プチモンドお茶の水301号
鶏鳴学園
? 03?3818?7405
FAX 03?3818?7958
ホームページ http://www.keimei-kokugo.net/
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7月 26
この夏、全国の3箇所で、小論文に関する講演をします。
第一学習社主催の小論文に関する講演会です。
新しい学習指導要領がもたらす大きな変化と可能性の話から初めて、小論文に関する一般的な考え方について話をします。
その上で、具体例として、昨年の指導例をお話しします。聞き書きから、その一般化による小論文指導の例です。
以下の日程です。
■7月27日(水) 横浜駅「かながわ県民センター」
第一部講演 13:00?14:30
■8月2日(火)静岡コンベンションアーツセンター・グランシップ(最寄駅は東静岡駅 徒歩5分)
第一部講演 13:30?14:30
第二部座談会 14:50?16:30
■9月2日(金)札幌市教育文化会館(最寄駅 札幌駅)
第一部講演 13:30?14:30
第二部座談会 14:50?16:30
参加希望者は以下に問い合わせをしてください。
第一学習社 教育部
小論文事業部
〒113-0023
東京都文京区向丘2-28-12
TEL 03-5803-2134 FAX03-5803-2137
7月 07
第60回全国作文教育研究大会(2011年 60周年記念東京大会)
日本作文の会は、創立60周年を迎えました。今夏の東京大会は60周年記念大会として開催されます。幸いにも東京都教育委員会はじめ多くの区市教育委員会の講演をいただくことになりました。
高校作文教育研究会が担当している高校分科会もまた、全国の実践家に発表をお願いし、これまでにも増して分科会としての充実を図っています。地元企業に取材してポスターセッションを行った音川さん(京都)、連歌は実作してこそおもしろさが分かると創作指導に取り組んだ黒岩さん(福岡)、被爆体験の聞き書きを子ども時代に体験し、今教師としてそれを指導する立場にある渡辺さん(広島)が語り継ぎ、聞き継ぐことの意味を考えた実践、不登校の兄への聞き書きを通して発見したこと、それを論文、志望理由書にまで高めていった生徒のことなど、昨年のホットな実践を報告する中井さん(東京)。4本のレポートを1日半かけて、報告&討議します。どれも見逃せない魅力いっぱいのレポートです。
みなさんのご参加をお待ちしています。
■ 期日
7月29日(金)?31日(日)
■ 会場 東京
(1日目)調布グリーンホール (2・3日目)正則高校
■ 参加券 5000円 (当日券 5500円)
■ 宿泊 案内にあるホテルをご利用ください。
■ 内容 7月29日(金)全体会(調布グリーンホール)
10:00 オープニング
10:10 60周年記念行事「子どもと作文教育の未来と希望を拓く」
11:10 東京の若い教師からの発信
「わたし、こんなことやりたくて先生になったんだ」
12:00 昼食・休憩
13:00 中野七頭舞
13:15 東京からの実践報告
「『先生聞いて!』おしゃべり大好きな子どもたちと作る詩の授業」
報告・授業DVD・パネル討論
14:45 休憩
15:00 記念講演「子どものこころ 詩のこころ」工藤直子
16:30 閉会
17:00 世話人・発表者打ち合わせ
17:45 終了
7月30日(土)分科会(正則高校)
9:00 分科会
16:30 終了(17:00より総会)
7月31日(日)講座・分科会・全体会(正則高校)
9:00 講座・分科会(高校分科会は7/31も分科会を行います。)
12:00 昼食・休憩
13:00 全体会 特別講演「憲法を活かして平和をつくるー世界68カ国を取材してー」伊藤千尋
14:30 閉会集会(感想発表・次期開催地発表)
15:00 散会
高校分科会(第?分科会)の内容
この分科会は、1日半の分科会です。7/31午前中も分科会を行います。
?「読むこと」「書くこと」の日常的な指導について
音川誠一郎(京都府)
地元企業への取材を元にポスターセッションを行った。取材内容を文章にまとめる力、それを他人にわかりやすく伝える力の育成をねらいとした。対象は高校1年生。時間は約10時間。その実践の一端と生徒作品を紹介します。
?「連歌」を取り入れた授業
黒岩 淳(福岡県)
「連歌」は、日本の伝統的な文芸であるが、その面白さは、実作してみて実感することができると考える。そこで、生徒の創作を取り入れた古典の授業を行った。「俳諧連歌を理解させる『奥の細道』?芭蕉の発句をもとに『表八句』創作―」と「脇句の創作を取り入れた発句の学習指導―西山宗因の発句を教材として―」である。
?語り継ぎ聞き継ぐ国語表現
渡辺郁夫(広島県)
『月刊国語教育』誌での『彼岸花はきつねのかんざし』紹介記事から私と広島での被爆体験との関係を語り、続いて国語教師として、放送班参与としての指導を通しての取り組みを語る。困難な体験を通して、ただ悲惨さを伝えるのではなくそこから学ぶべきものを語り伝えていきたい。
?聞き書きから論文、志望理由書まで
中井 浩一(東京)
聞き書きは、高校生が社会と自分を見つめ直す大きな機会になります。そこで生まれた問題意識を深めるための指導を、どう展開できるか。論文、志望理由書へとどう発展させられるのか。それを昨年の実践から報告します。ある女子高生が「不登校」の兄に聞き書きをした記録です。
連絡先 中井 浩一 鶏鳴学園
? 03(3818)7405 Fax 03(3818)7958
7月 06
日本作文の会の機関紙『作文と教育』2011年6月号では、聞き書きの特集が掲載された。
私が代表を務める高校作文教育研究会からは、私と古宇田さんと程塚さんが寄稿した。
以下が私の原稿。
異文化兄妹 「自分づくり」のための聞き書きをめざして 後半
東京 鶏鳴学園 中井浩一
4.両親への聞き書き
実は、この兄への聞き書きの中に、母への取材が挿入されている。
「お兄ちゃんが学校にいかなくなったときは心配だった?」「できることなら普通に学校も行く子にそだってほしかった?」「学校に行かなくなった頃は登校するようにすすめた?」「まさか自分の子供がこのように育つとは思ってなかった?」といった質問が並ぶ。
母は次のように答える。
「お母さんってどちらかというとK(N・Kのこと)と同じタイプじゃない?赤点とって学校卒業できませんとかはありえなかったし自分の人生を参考にできないから戸惑った。どうしていいのか想像もつかなかったから。でも途中で面白がろうと思ったよ。中3のときに担任の先生に言われて気づいたように信じてあげようって。心理学者の本も不登校の子の本もたくさん読んだけど結局はお兄ちゃん自身を信じてあげることなんだよね。自分の事を思い出してみたんだけど、お母さんもお父さん(おじいちゃん)にすごく信頼されててそれが嬉しかったんだ。だから人って誰か一人でもいいから味方を持ってるって大切なこと。親の役割は自分の子供を信じてあげること、それだけ」。
母への取材は、Nにとっては自然だったろう。Nが「普通」(2の傍線参照)に強いこだわりを持っていることを思うと、Nに近い価値観の人が、兄をどう受け入れたのかを考えることになるからだ。
そして、兄への聞き書きに続いて父の仕事の聞き書きを行った。それ自体は弊塾での全員への課題なのだが、Nにとっては特別の意味があったろう。Nの家族構成は両親と兄と自分の4人であり、残った取材対象は父だけだった。父の視点からの兄の姿を知れば、自分の家族の全体像が浮かび上がる仕組みだ。
「兄と父親が喧嘩になる」ことも多く、父は「自分の合わないところには敏感な点はある意味お父さんとお兄ちゃんっていうのは似てるのかもね」と語る。父と兄の似ている点は、父親の進路や仕事の話から確認できる。
父は理学部の出身だが、洋書販売会社に就職した。その会社は九〇年代の不況下で倒産し、重役としてその対応に奔走する。その後二回の転職をしている。
一番衝撃的だったのは、当時の会社の実態を知ったことです。自殺者が出たことは元から知っていたけれど、それよりも父が2年もの間無給で働いていたということの方が私にとって衝撃的だったように思います。会社の状況が悪いということを具体的な数字で聞いた時も言葉を失ってしましました。
また、父は理学部を出たのに洋書会社に務めました。進路を考える時にどうしても就職と結びつけて考えていた私は、そのことを改めて聞いて、パっと大学の学部を考える視野が開けたような気分になりました。
「世の中には数え切れない程の仕事の種類があるのだから、それをいくつかの学部に分類する方が不可能だ」という父の言葉にとても納得できました。そして父のように好奇心が旺盛であればどんな仕事も楽しめる、大学はその好奇心を作るために行くのだと聞き、やっと自分でも納得の出来る大学に行く意味というのが見つかったように思えました。※
5.志望理由書、作文、小論文
これだけの内容をつかみとったNであれば、あとはそれを文章にまとめればよい。そして、取材で明らかになった経験と事実の意味を深く考える段階だけが残っていた。それらを夏の五日間の小論文の講習から始め、さらに秋以降も練習を重ねた。
既に兄と父の2人にインタビューをしていたので、あとはまとめて志望理由書や課題を仕上げるだけでした。私は上智と立教2つを受けようと思っていたので、志望理由書と課題レポートをそれぞれ2つずつ書きました。立教の課題は異文化についてだったので数回の書き直しですぐに書き終わりましたが、上智の課題は少し難しく、何日かはかかったけれど考えていたよりもずっとスムーズに進んでいきました。こんなにスムーズに進むなど関心事が無かった時や、インタビューの相手が見つからなくて焦っていた時には思ってもいませんでした。
しかしこのようにスムーズに進んでいったのはやはり兄と父へのインタビューの影響が大きかったと思います。中井先生は「インタビューをするなら自分が壊されてしまう程の衝撃がなくてはダメだし、そういうものが1つでもあれば何にでも繋げられる」とおっしゃっていました。そのことがこの夏期講習で実感できたと思います。また、ホームステイと繋げての異文化について、一学期の私は確かに本気で考えていたけれど、それでは誰でもできるし面白くなかったと徐々に自分でも感じられるようになってきました※。
私が小論文の練習の課題文に選んだのは慶應大学の法学部に出題されたテキストで、マスコミが与える模擬現実と現実のズレをテーマにしたものだ。これによってNがこだわる「普通」の意味を問い直すことがねらいだった。それは結局は、母と自分の兄への態度の違いを考えることになった。私は、この作業を通じて「考えること」の意味を理解して欲しいと願っていた。
慶應の小論文のテーマは兄のことで通しましたが、先生にアドバイスをいただいて違った視点から考えるなど何回か書き直しました。例えば、私と母の兄のとらえ方の違いについても、始めのうちは自分と世間との関係について述べていました。しかしだんだんと母からの視点について取り入れ、最後の方はほとんど母がどのようにして兄を受け止めていったのかを述べるようになっていました。少し視点を変えるだけで全く違うものになりました。
難しい課題だったので、塾から家に帰るまでは何て書けばいいのか、どこから考えればいいか見当もつかないし、答えなんて出てこない、今日は一体何時に寝られるのだろうかと憂鬱でした。私は ‘考える‘ことから逃げていたのだな、と改めて感じました。しかし、一度取り組み初めてしまえば、時間はかなりかかるものの、様々な考えが浮かんできました。何回か続けていくと、自分が出した答えや考えにまた疑問が浮かび、考え、またの考えに疑問を出し・・・とどんどん掘り下げていくようになりました。
例えば、私と母の兄をとらえる違いは、世間の目を取り入れているかいないかの違いであるが、母もはじめは世間側から兄を見ていた→ではどうして兄をとらえ方が変わっていったのか、何が母を変えたのか、という具合である。※
こうして、Nは9月、10月には二つの大学に志望理由書と課題作文を提出した。立教大は不合格だったが、小論文や面接を経て上智には合格できた。見る目のある試験管に当たったのだと思う。
6.聞き書きの課題
私が高校生に聞き書きをさせるのは、「自分とは何か」を考えさせたいからだ。「自分」とはその人のテーマ、問題意識に他ならないだろう。関心のある社会問題やあこがれの仕事の「現場」に行き、現実の問題と闘っている人の話を聞いて文章にまとめる。それは、高校生にとって、他者の問題意識を媒介にして、自分自身の問題意識を作り上げることに他ならない。そうした目的で行う聞き書きでは、以下の三点が重要だと思う。
(1)大きな問題と身近な問題
「国際理解」とか「異文化理解」とかは、重要な問題だが、いささか流行りすぎで軽薄な理解が横行している。それらを、自分の身近な問題と結びつけることができなければ、本来のまっとうな力にはならないだろう。
(2)対象(他者)理解と自己理解
取材や聞き書きの対象や相手の選択では、問題の大きさ深さだけではなく、その取材者、書き手にとって、はっきりとした意味がなければならないと思う。対象理解は自己理解に他ならない。
(3)思考による一般化
問題意識は、思考によって深められ、一般化した形にまで高める必要がある。一部の方々は、大学入試の紋切り型の「小論文」への反撥などから、思考や一般化そのものまで否定するような傾向があるように思うが、大きな間違いだと思う。高校生がテーマ、問題意識を作るために一般化は不可欠ではないだろうか。
Nの文章は太字にした。実名は伏せ、長い文では省略した個所がある。段落などの一部は整理した。他は文章を変えていない。