小中の先生方を対象とする月刊誌『悠(はるか)』8月号に、教員免許更新制の有効利用というテーマで原稿を書きました。
この制度自体には問題がたくさんありますが、実施が決まった以上、それをできるだけ学校の先生方にとって有効利用するための考え方を示すことが、編集部からの依頼の内容でした。
以下が拙稿です。
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学校外へと発想とネットワークを広げるために ?免許更新制の有効利用?
? 時代の転換期にあって
免許更新制度は、突然上から降ってきました。それだけにいろいろと問題点が指摘されています。しかしすでに決まったことですし、毎年約一〇万人近くの全国の先生方が、校種や地域を越えて、全国の大学で一斉に講習を受けるのです。これはすごいことですから、是非、良い結果が出る方向に、この制度を運用しなければならないでしょう。
そのためには、今が時代の大きな転換期だという認識が必要です。将来への展望を切り開けない閉塞感の中で、私たちの社会は不安やいらだちを募らせています。その中で、教育界はずっとバッシングの嵐の中にあります。「ゆとり教育」では文科省と公立校が、「法人化」では国立大学が、そして「免許更新制度」では学校と教員が強く批判を受けています。どうしてでしょうか。
個々の問題は多々あるのですが、大きく言って、学校内と外との意識のズレが非常に大きくなっているのです。政治・経済のリーダーたちだけではなく、広く社会一般の意識と、学校や教育界の価値観、行動様式との間に大きなズレが生じているようです。
学校、大学、教育界全般は、もともと強固な閉鎖社会でした。「子どもたち」を守るという善意からではありますが、しばしば外の社会に対して独善的になりました。外に閉じるだけではなく、内部でも個々の先生方は相互不干渉が普通でした。また、教員養成に関わる大学と学校と教育委員会、この三者もこれまではバラバラなことが多かったのです。
しかし、そうした在り方が批判を受けているのです。今は私たちの社会や家庭が壊れかかっています。その時に、教育界と言えども、自分たちだけが守られることはできません。社会からの外圧を受けながら、逆に社会に働きかけ、学校や先生方の意識を変えながらも、逆に教育界全体や社会を変えていくような発想と戦略が求められています。
では、特に本誌の読者である小中のスクールリーダーの先生方を念頭に、その戦略を考えてみましょう。そしてあわせて学校内の内向きの言葉を外に通用する言葉へと翻訳する能力、つまり媒介者の能力についても考えてみましょう。
? 戦略的発想と媒介者としての能力
まずは、全体像を把握することが必要です。今回の免許更新制では、地域にあっては三者が登場します。主役はもちろん講習受講者の学校の先生方ですが、もう一方に講習実施者の大学があり、さらに地域の教育行政をつかさどる県教育委員会が存在します。この大学と教育委員会に、今回何が求められ、何が変化するのか、それを知ることが戦略作成の第一歩です。
教員の養成をする大学と、教員の採用と教育を行う教育委員会は、本来は密接な連携と協力がなければならなかったはずです。しかし、そうした関係はほとんど存在しませんでした。だからこそ、今、それが強く求められています。大学間の連携も模索され始めました。
教員養成系大学ではその教育・研究が教育現場の実践から遊離していることが問題とされてきました。そして今回の講習で、大学はその実力を世間にさらけ出すことになります。すでに今年度の申し込み状況に、大学間、個々の教員間での人気の差がはっきりと出ています。初回である今回はただの人気投票の意味しかもたないでしょう。しかし講習実施後には受講者からの事後評価が公表されます。口コミでも噂は広がり、来年以降はさらに厳しい結果が出るでしょう。こうして大学は社会から裁かれるのです。
裁かれるのは教育委員会も同じです。講習の質を高めるには、現場の情報を大学に伝えなければなりませんが、それは教育委員会の役割だからです。教育委員会は、地域の学校現場の現状や課題を正確に理解していなければならないはずです。その実力も今回チェックされます。
今回の免許更新制で、大学と教育委員会が直面しているのは以上のような厳しい状況です。受講者は、ただ受け身でいるべきではありません。自分たちが大学や教育委員会を評価するとの自覚を持って、主体的に関わるべきなのです。
本来は、大学と教育委員会だけではなく、学校(先生方)をも含めた三者が普段から連携していなければならないでしょう。それができている地域では、免許更新制もスムーズに行くはずです。例えば岐阜県では、大学コンソーシアム岐阜(岐阜大を中心に県内17大学、岐阜県教育委員会が参加)の下部組織として免許更新事業を位置づけ、必修科目や選択科目に10大学が連携して取り組んでいます。このコンソーシアムの中で30時間分の講習を選択して全て揃えることができます。普通は、受講者は各大学単位の講習手続きする必要がありますが、ここでは一つで済むのです。岐阜では以前から、こうした連携が行われていたからこそ、こうしたことが可能になっているのです。こうした例と、自分の地域を比較すれば、その地域の課題が見えてきます。
こうした全体を見る目と共に、先生方が自分自身の教師力を高める研修の場として、更新制度を利用することが大切です。現場に必要なものを主張し、それを学ぶ場を実現していくのです。しかし、単に教科指導や生活指導などの直接的な面だけではなく、スクールリーダーに必須の媒介者としての能力も磨くことができます。
講習では全国の小中高、私立・公立といった種別を超えた人々、大学の教員や教育委員会の関係者との出会いがあります。そうした場を意識的に利用して人脈を広げ、自分の地域や学校外とのネットワークを作っていくことです。それが、上記のような戦略的な発想を生むことにもつながり、媒介者としての能力を向上させますから。