高校作文教育研究会の2月の例会は、2月15日(日)に行われた。
この研究会は、私が代表を務めている全国的な研究会だ。
報告の内容は以下の3本
(1) ハンセン病患者への聞き取り調査
愛知県 日本福祉大学付属高校 今田 和弘
文化祭でハンセン病を取り上げ、高校生と一緒に聞き取り調査を開始。しかし、文化祭学級企画では1年限り。そこに「総合」学習の導入があり、継続的に高校の授業で、聞き取り調査を通じてハンセン病を追い続けてみた。
本校でスタートさせた「地域とむすぶ総合的な学習の時間」で、FWを含むハンセン病と人権講座を行った。聞き取り調査を通じて「テープ起こし」をする力の意味を再発見!「レポートつくり」や「レジュメを作っての発表」。そして、地域での「ハンセン病パネル展示会」などを通して、高校生の力と総合のもつ可能性を発見した報告です。
(2)「短い論文」における「経験の一般化」の指導
?中井メソッドの指導理念と方法論にのつとって?
茨城キリスト教学園高校 程塚 英雄
中井メソッドによる「短い論文」や「小論文」は、「経験」の部分とそれを「一般化」した部分に分かれ「一般化」した部分は「問い」、「分析」と「答え」で構成される。しかし、「経験」から 「一般」への飛翔は、『脱マニュアル小論文』も指摘するように、「多くの高校生にはムズカシイ」(P171)。この報告では、今年本校の三年生が書いた「短い論文」を数編読んでいただき、どうすればその壁を乗り場えさせられるか、皆さんと一緒に考えてみたい。
(3)「経験文を書く」―大学での実践例―
聖心女子大学 准教授(フランス中世史) 印出 忠夫
中井浩一著『脱マニュアル小論文』で提唱された作文指導法を、大学一年生対象の半期の教養演習「経験文を通して自分を知る」の場で実践した経験を報告します。大学生といってもまだ新入生ということもあり、高校生の場合と比べてなにほどか新味のある結果をお話できるかどうかは良く分かりません。報告者は作文の指導経験が皆無なので、この機会にさまざまなご意見をいただければ嬉しく思います。
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(1)は、「聞き書き」シリーズの一環。
これには、以下の事情がある。
高校作文教育研究会は、昨年秋から1年間ほど、会のテーマを「聞き書き」として、聞き書きの可能性、授業で実践する際の具体的手だて、その課題などを検討しています。
私たちの例会に、毎回各地の中学、高校のすぐれた実践家10人ほどをお招きし、みなで共同討議をします。もちろん、生徒作品を丁寧に読みながら、具体的に考えます。
この成果は、研究会として本に出版する予定です。そのために、まずは今年の6月頃から雑誌「月刊 国語教育」に1年の連載をすることが決まりました。アンカーは古宇田栄子さんです。
さて、今回の「ハンセン病患者への聞き取り調査」の報告は、実は3年前にも例会でしてもらい、共同討議をしている。今回は、その後の実践を踏まえての再報告であり、再検討だった。
この調査は高1の文化祭の試みとして始まったが、その後総合学習として組織されて毎年全国の「ハンセン病患者」への聞き取り調査を行っている。
学校のある愛知県は、県からハンセン病患者を一掃した県だ。保護者の中には、子どもを調査に行かせない人も出てくる。その学校の地元から追放された患者たちと、高校生は出会う。そして、何人かは、その事実と思いを、帰ってから自分の家族と話す。それは彼らを変えていく。高1で引っ込み思案だった女子は、家族と話し合う。この経験で大きく成長して、生徒会長を引き受けるまでになった。
初回の高校生も大学進学し、すでに社会人になっている。衝撃的な聞き取り調査が、一人一人のその後の人生にどういった影響を与えたか、それを考えるだけの時間がすぎた。今回は、そこまで踏まえた議論ができて良かった。
前回私が評価した二人は、その後、大学生になっても、この聞き書きに参加し、後輩たちのめんどうを見ていたという。一人は社会福祉関係、一人はトヨタに就職した。
わたしが評価しなかった女子高生たちは、卒業後も高校に遊びに来て、聞き取り調査で出会った患者さんを懐かしがると言う。
参加者のある年輩者からは「電車に乗っていると、老人にひょいと席を譲ってくれる気のいい茶髪の女子高生がいるが、彼女たちの文章がこうしたもんだ」「思ったこと、感じたことを、何の考えもナシに書いてしまう」。そうした文章も、またそうした「気のいい」彼らの自己表現として、的確に評価されることが必要だとの指摘だ。
こうした指摘から、さまざまな高校生たちの文章の読み方を学んでいける。
(2)の程塚英雄さんの報告は、極めて重要な問題提起だ。
それは、高校生が論文を書く目的は何か、経験を一般化することにどういう意味があるのか、という問題だ。高校生の日常と普遍世界をどうつなげばよいのか、という指導方法に関する問題でもある。「経験」から「一般」への飛翔は、いかにしたら可能なのか。この問いに、すべての教師は自分の答えを用意しなければならないはずだ。
(3)は大学の初年次教育、基礎教育の在り方を考える上で重要だ。
繰り返し試みて、練り上げていって欲しいと思う。