3月 28

2013年に中井ゼミで考えたこと その2

1 逃げ場としての「哲学」

   ゼミの参加者に、長くフリーターの生活をしているA君がいます。もう30歳を過ぎますが、
  正社員の経験はなく、バイトの経験しかありません。そして藤田省三や鶴見俊輔の全集を持ち、
  それらを読むことを生きがいにしています。周囲をバカにして、「オレには学問という
  よりどころがある。いつかは学問に専念したい」と考えています。
  彼には次のような批判をしました。
                                        

     2013年2月10日                                        

   「現実・実践」と「理論・思想」(本を読むこと)で、後者の本質的な高さにあこがれ、
  それをめざす気持ちが、A君を支えたのだと思う。

   実際の「現実・実践」や、世間や周囲は絶対的にはとても低く、問題をたくさん持つ。
  A君はそれをバカにし、否定して、「引きこもり」生活に入った。そして、その生き方を
  正当化してくれるものを本に求めた。

   A君にも正しい面はある。「世間や周囲は絶対的にはとても低く、問題をたくさん持つ」
  は事実であること。その否定を続けて、妥協しないで生きてきたことを評価してもよい。
  だからピュアで無骨で愚直な良さがある。

   しかし、周囲を否定して、「引きこもり」生活を続けることは、それ自体が低い生き方
  (相手に依存して、それを自己正当化に利用している情けなさ)。正しくは、その低さ・問題と
  直接に戦い、それを変えていくことだった。また、「引きこもり」にはモノローグしかなく、
  ダイアログ(弁証法=思考)が生まれなかった。

   その低い生き方の正当化に、本を利用するのは問題。「現実・実践」や世間や
  周囲の低さや問題を的確にとらえた本や思想は存在する。そこから、自分が漠然と感じた
  気持ちを言葉にしていくことは正しい。そうした理解を持つことは、世間一般よりも上の段階。
  しかし、それは現実の場で正しく戦うため。

   A君は「理論・思想」を悪用している。自分の引きこもり生活を正当化し、現実の場で
  戦わないことの「言い訳」に利用した。

   そもそも「理論は実践の反省形態」でしかない。現実とそこでの実践が根源である。
  現実の中で低いながらも一生懸命に努力している世間や周囲の中には、深い真実がある。
  そこに理念が隠れている。そこ以外には、現実も理念も存在しない。
  それを、A君は無視、軽視し、切り捨てた。

   現実の場で「労働」し、そこでの自他の問題、人間関係の問題、社会の問題としっかり
  戦うことが基礎。理論、思想、本を読むことは、その現実の場での戦いを支えるためにある。
  A君は、その自覚が持てずに、今に至っている。したがって、「労働」をせず、現実の場での
  実績もほとんどないままである。

   また、「理論・思想」のトレーニングも受けていないし、その正しい練習もしてこなかった。
  本の読み方も知らず、書評すらかけない。ここでも地味な積み重ねをしてきていない。

  ※「理論は実践の反省形態」は牧野紀之から学んだ考えである                                                                             

  

3月 27

2013年に中井ゼミで考えたこと その1

昨年2013年12月29日に中井ゼミの「反省会」がありました。
 私と師弟契約をしている人とそれに準ずる人が集まり、1年の振り返りをしました。
 そこでの意見交換を参考に、昨年1年に考えてきた主な内容を報告したいと思います。

  昨年のゼミ全体としては大きくは3点が指摘できると思います。

 (1)ゼミ全体の能力が高まってきたために、私と師弟契約をしている人やゼミの
    メンバーの間での意見交換、相互批判が、やっと本格的なものになってきました。
    私も、ゼミ運営上の重要なことを彼らに相談できるようになりました。

 (2)内容的には、それは民主主義の問題だったと思います。
    つまり、自由と平等と公正、公平。人格の平等と能力の不平等の矛盾。
    人と人との「まっとうな関係」とは何か
    「批判はなぜしなければならないのか」

 (3)メンバー個人にも、ゼミ自体にも、たくさんの問題が浮き彫りになった1年でした
    問題が自覚された時は、それを解決する能力を持てた時だ、とマルクスが言っています。
    私はこの言葉にいつも励まされてきました。

    このマルクスのコメントには、もちろんヘーゲルの発展の考え方が背景にあります。
    前進することは、そのまま自分の本質へと後戻りすることです。ですから現状以上に
    前進するには、現状を生みだしている自分の本質へと後戻りすることが必要があり、
    そこで問題が問題としてはっきりとするのです。

    たくさんの問題が見えたことは、ゼミの能力の高まりが背景にあり、望ましいことです。
    問題がはっきりするのは、発展のための必然的な1プロセスです。それらの問題を
    解決する力を持てたからこそ、そうした問題がはっきりと表れてきたのだと受け止めて、
    取り組みたいと思っています。

    そうした問題を1つ1つ定式化し答えを出すのが、私の仕事です。

    そうした問題の中からいくつかを報告したいと思います。その定式化や答えとしては
    まだ生煮えの段階のものもありますが、どの問題も現代社会に広く一般的な問題ですから、
    読者の皆さんには問題提起として受け止めていただけると思います。

  ■ 目次 ■

   1 逃げ場としての「哲学」
   2 医者との付き合い方
   3 なぜ批判しなければならないのか
    (1)その人の人生のレベルを決めるもの テーマと人間関係
    (2)批判について
    (3)メンバーからの意見
   4 感情的になることについて
    「認識における感情・感性的の意味」
   5 感覚的な表現の的確さと人格の尊厳
   6 公開の原則
    ○中井ゼミとの関わりを「隠す」こと
    「公開の原則」
  
                                    

3月 25

4月以降のゼミの日程が決まりました。

また、4月と5月の読書会テキストが決まりましたので、お伝えします。

参加希望者は早めに(読書会は1週間前まで、文章ゼミは2週間前まで)連絡ください。
ただし、参加には条件があります。

参加費は1回3000円です。ただし文章ゼミは1回2000円。

◆2014年4月以降の予定

(1)日程

  4月12日 文ゼミと「現実と闘う時間」
  4月26日 読書会と「現実と闘う時間」

  5月10日 文ゼミと「現実と闘う時間」
  5月24日 読書会と「現実と闘う時間」

  6月7日  文ゼミと「現実と闘う時間」
  6月21日 読書会と「現実と闘う時間」

  7月5日  文ゼミと「現実と闘う時間」
  7月19日 読書会と「現実と闘う時間」

  8月21日?24日まで合宿

  ※5月3日?6日の間に、1泊2日での合宿を計画しています。
  その場合は、5月10日はなしになります。

(2)読書会テキストについて

 【1】4月の読書会

   マルクスのアダム・スミス『国富論』への批判的検討を読みます。
  昨年の12月から3回に分けて、アダム・スミス『国富論』(中公文庫)
  を通読しました。その復習にもなると思います。

   テキストはマルクスの『剰余価値学説史』国民文庫版で1巻、2巻。
  テーマは、『国富論』の第1篇における賃金の二重性の問題
  第2編の「生産労働」と「非生産労働」の区別です。

  『剰余価値学説史』国民文庫版はアマゾンから中古品で入手可能です。

 【2】5月の読書会

   今西 錦司『生物の世界』 (講談社文庫 い 26-1) を読みます。
  これは世界的に有名な今西錦司が、若き日に出兵前に遺書として
  書き残した記念的な著作です。

  生物社会の構成原理を生物と環境・社会論と歴史論の面から明確にし、
  ダーウインの進化論を超えたと言われる「今西進化論」の基礎となる
  考え方が示されています。

  今西生物学の所謂「棲み分け理論」をはじめとする思想的自画像風の
  ユニークな文化論でもあります。

   日本人の科学者が、その科学的世界観と論理が世界水準にあることを示した1冊。

2月 18

アダム・スミス『国富論』の読書会の案内

2月と3月の読書会テキストは、アダム・スミスの『国富論』です。

経済学の創始者スミスは、近代という時代の大きな転換点で、
人間について、人間の社会の公平・公正について、国家について、
徹底的に考え抜いた人です。

大きな人間で、
普通はタブーになっているようなことでも、
あけすけにズバリと言ってのけます。
唸ることがしばしばです。

経済に関心のある人、
現代社会をその基礎の基礎から考えてみたい人にとって、
必須の本だと思います。

参加してみませんか。

テキストの全部が読めなくても、参加して聞いているだけでもいいと思います。

希望者は連絡ください。

日時は
2月22日午後5時から7時まで 読書会
3月22日午後5時から7時まで 読書会

テキストは岩波文庫版ではなく、中公文庫版(?、?、?の3冊)で読みます。訳文の点と共同研究が背景にある点で、そうします。

2月は
『国富論』の第2編(文庫?)、第4編(文庫?)を通読します。

3月は
『国富論』の第3編(文庫?)、第5編(文庫?)を通読します。

昨年12月は
『国富論』の第1編を通読しました。
スミスが、予想外に、または予想通りに
大きな存在であることが確認できたので
2回ではなく、3回に分けて
少し丁寧に読みたいと考えました。

2月の
『国富論』の第2編、第4編について

第2編は経済の本質論です。
ここはじっくり読む必要があります。

第4編は経済学史であり、
スミスの時代の世界経済の現代史であり、
スミスの経済学上の立場がはっきり示されるはずです。

小見出しだけは通読し、
面白いと思ったところを読んでみてください。

3月の
『国富論』の第3編、第5編について

第3編は都市と農村の関係論、また歴史的な都市論です。

第5編が、スミスの近代国家論(経済学から見た)です。

これらの読み方はまた説明しますが
小見出しだけを通読しておくことです。

なお、小見出しだけを通読するのには
文庫?の「小見出し一覧」を読むのが便利です。

10月 27

改めて、今年の暮れまでの学習会のスケジュールと読書会テキストをお知らせします。

参加希望者は早めに(読書会は1週間前まで、文章ゼミは2週間前まで)連絡ください。参加には条件があります。

参加費は1回3000円です。ただし文章ゼミは1回2000円。

(1)毎週月曜日のゼミ
 ?日本語文献の読書会 午後5時より
  関口『無冠詞論』を読んでいます。
  今、5章を読んでいるところです。

 ?ドイツ語原書講読 午後7時より
  マルクスの「労働過程論」(『資本論』第1巻第3編第5章)を読み終え、
  来週(11月4日)から、ヘーゲルの「目的論」(『小論理学』204節から212節)を読みます。
  ズールカンプ社版全集第8巻を使用します。

(2)毎月の文章ゼミと読書会の日程

11月9日 文章ゼミ+現実と闘う時間
11月23日 読書会
12月7日 文章ゼミ+現実と闘う時間
12月21日 読書会
12月某日 今年1年の振り返りと忘年会

(3)11月からの読書会テキストについて

 11月23日 読書会(高島善哉著『アダム・スミス』岩波新書 青版 674)
 12月21日 読書会(アダム・スミス『国富論』1 中公文庫)
 2014年1月 読書会(アダム・スミス『国富論』2、3 中公文庫)

 古典派経済学の創始者アダム・スミスの『国富論』を読みます。
 スミスはマルクス『資本論』の前提の労働価値説の創始者でもあります。

 新たに経済学が生まれてきた時代背景を知り、その時代の経済問題と
 雄々しく闘ったスミスの戦いぶりを、読んで考えてみたいと思います。

 高島善哉著『アダム・スミス』岩波新書(青版 674)は古いですが、
 アマゾンで 「中古品」として簡単に購入できます。

 アダム・スミスの『国富論』は、岩波文庫版ではなく、中公文庫版で読みます。
 訳文の点と共同研究が背景にある点で、そうします。