11月 27

対等な関係における意見交換、相互批判の原則 その3

夏の合宿以降、ゼミ生相互の信頼感が急速に深まってきたようだ。一部にではあるが、活発な意見交換、相互批判が行われるようになった。

しかしそうした中で問題も出てきた。批判の言葉に傷ついたり、感情的になったりすることが起こってきたのだ。このことは当然予測されたことだ。一つ上のレベルへ高まろうとする限り不可避のことでもある。

師弟関係は上下関係だが、ゼミ生間は対等な関係だ。そこにはこれまでとは別の原則が必要になるのだ。

この10月に、その原則について話し合いをした。私は一般的な原則と感情的になることについての対策の2つを中心に提案をした。そのレジュメをここに3回にわけて発表する。

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◇◆ 仲間内でのアドバイスや批判をどう考えるか 中井浩一 ◆◇

          2010年10月23日
二 感情的になることについて
(1)感情の根元性
1.感情や実感こそが、現実を直接に反映する、根源的なもの
  2.それを否定したり、抑圧するのは間違い
3.しかし、感情は、生なままの、あいまいで混沌とした形で現れやすい。
例外的に、純粋な感情が吹き上げることはあるが、それはあくまでも例外

(2)感情の何が問題か
  1.感情全体が問題なのではなく、怒りや憎しみ、恐怖などの、マイナスな感情が主に問題で、相手を攻撃しようとすることになりやすい。
2.しかし、プラスの感情(愛など)でも、相手への依怙贔屓などの問題も起こる。
  3.それが問題なのは、
内容上の公正、公平さが損なわれやすいから
形式上の人格への配慮ができなくなりやすいから

(3)解決は思考による
1.普通は、感情内で、解決するのはムズカシイ。
2.普通は、感情問題を解決できるのは思考でしかない
しかし、その解決とは何か

(4)思考による解決とは何か
1.事前に感情をコントロールしたり、感情を抑圧することではない。(できないから)
2.感情に「含まれる」意味を明らかにすることしかできない。
「含み」を徹底的に明らかにすることによって、結果的に自然に感情をコントロールできるようになっていく
3.しかし、この作業は、無意識な部分を意識化することになり、深刻な問題を明らかにすることにもなる。深刻な内的な葛藤をも引き起こす。
自分に向き合う辛さがある。
したがって、それをどこまで進めるかは、最終的には本人次第である。
本人の主体性を尊重するしかないし、踏み込む範囲や迫り方には慎重でありたい。
4.以上をわきまえながら、「含み」について話し合い、相互に理解し合い、尊重し合い、前に進みたい。
  5.今後、感情的なことが起こった場合、それを指摘し、その理由(「含み」)を考えるようにする

※感情の「含み」を明らかにしていく中で、感情にも「浅い」ものと「深い」ものの違いがあること、問題があるものとないもの、「含み」の自覚を進めるものとそうでないもの、などの区別が見えてくるだろう。感情内にも矛盾があり、それが「含み」をつくり、その意味を明らかにしているのだ。

11月 26

対等な関係における意見交換、相互批判の原則 その2

夏の合宿以降、ゼミ生相互の信頼感が急速に深まってきたようだ。一部にではあるが、活発な意見交換、相互批判が行われるようになった。

しかしそうした中で問題も出てきた。批判の言葉に傷ついたり、感情的になったりすることが起こってきたのだ。このことは当然予測されたことだ。一つ上のレベルへ高まろうとする限り不可避のことでもある。

師弟関係は上下関係だが、ゼミ生間は対等な関係だ。そこにはこれまでとは別の原則が必要になるのだ。

この10月に、その原則について話し合いをした。私は一般的な原則と感情的になることについての対策の2つを中心に提案をした。そのレジュメをここに3回にわけて発表する。

なお、いつものことだが、私の考えは牧野紀之氏の考えを前提としている。今回も、一原理論の(1)「能力の不平等と、人格の平等の矛盾」の定式や、(3)「人間の相互理解」の基本は牧野氏から借りている。

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◇◆ 仲間内でのアドバイスや批判をどう考えるか 中井浩一 ◆◇

          2010年10月23日
一 原理論
(1)「能力の不平等と、人格の平等の矛盾」(牧野紀之より)をどう考えるか
1.この矛盾は、民主主義社会の一般的な問題。
みなが能力を高めあって、みなが高い能力で生きることが解決
それがムズカシイ
2.師弟関係は、能力の上下関係を確認し、それを認め、能力を高めることを目的とした関係だから、人格の問題が基本的には解決されている
3.私のゼミの横の関係では、前提があるから、一般社会よりは、少し簡単
同じ目標(真っ当な生き方、考え方をしたい。自分の可能性を最大限に発揮したい)のもとに、同じ先生を選んでいる。
そこから生まれる信頼関係がある。

(2)何が問題なのか。→ (1)の原則の自覚のなさと認識能力の低さ
  1.内容の問題。認識能力の低さゆえに内容に間違いがおこる
   相手の発展段階の理解と、自分自身の発展段階の理解を踏まえたものにならないと的確な内容を言えない。
言う、言わない、の判断ができない。(言わないという判断もありうる)
→ これには「自己理解と他者理解の統一」を倫理として出している
しかしそれだけではなく、認識能力の低さの問題こそが大きい
  →しかし、能力は、使わないと高まらない。失敗は覚悟すべき
2.形式の問題。(1)の原則の自覚のなさゆえに相手の人格の尊重を軽視する
言うにしても言い方が問題になる。相手の人格を尊重しなければならない
無礼も、慇懃無礼もある。
 →しかし、萎縮して何も言えなくなるのは避けたい。失敗は覚悟すべき
  
(3)注釈 人間の相互理解(牧野紀之より)
1.相互にすべてを理解し合うことは不可能だし、その必要もない →誤解は不可避
 ※「不可能」というと消極的だが、ここにはもっと積極的な意味がある。
  それは人間の尊厳性の根拠ではないか。例えば夫婦でも踏み込んではいけない領域があるし、秘密はあっていいし、あるべきではないか。
2.それを自覚した上で、誤解の確認と解決への道筋があればよい

(4)対策
1.多くの人は、最初は自分のことで精一杯で、他者のことまで考える余裕がない。
自分を第一にしながら、言える範囲で他者について発言すれば十分
  2.余裕が出てきた段階では、仲間内での意見交換は積極的に行われるのが望ましい。しかし、相手のことが最初はよくわからないから、
内容も形式も問題が多い発言になる。
   失敗を重ね、反省を重ね、少しずつ相互理解を深め、能力を高めていく以外にない
    → 言うべきか否かで迷うぐらいなら、言った方がよい
3.言い方や相手への配慮は必要だが、それにあまりにエネルギーをさくのは不毛。
「わざと」でなければ、結果的に傷つけることは不可避であり、しかたがない。
それを許し合い、認め合って、前に進みたい。
  4.問題が起こったと気づいた人は、それを指摘し、みなで話し合う
こじれそうで、自分では解決できなそうなら早めに中井に相談する
  

11月 24

対等な関係における意見交換、相互批判の原則 その1

夏の合宿以降、ゼミ生相互の信頼感が急速に深まってきたようだ。一部にではあるが、活発な意見交換、相互批判が行われるようになった。
これまでは、私とゼミ生1人1人との個別的な関係が中心で、ゼミ生相互の関係は表面的なものに留まっていた。

それがこの秋から変わった。その原因としては、ゼミ生の多くが、真摯な反省に基づいた自己理解の文章や報告を出すようになったことがあげられよう。
その真摯な姿勢、頑張っている姿は、仲間たちに深い共感を呼びおこし、自分も頑張ろうと思うようになってきた。
この様子は9月20日から10月1日までにブログに掲載した「夏の『ヘーゲル哲学』合宿」からもうかがえるでしょう。

ゼミ生相互の意見交換、相互批判が行われるようになったのは、とても喜ばしいことだ。
これは、私たちのゼミが、これまでの蓄積を踏まえて、今、さらに一つ上の段階に高まろうとしていることを意味する。

しかしそうした中で問題も出てきた。批判の言葉に傷ついたり、感情的になったりすることが起こってきたのだ。このことは当然予測されたことだ。一つ上のレベルへ高まろうとする限り不可避のことでもある。

師弟関係は上下関係だが、ゼミ生間は対等な関係だ。そこにはこれまでとは別の原則が必要になるのだ。

この10月に、その原則について話し合いをした。私は一般的な原則と感情的になることについての対策の2つを中心に提案をした。そのレジュメをここに3回にわけて発表する。
この問題は、一般社会でも友人や恋人、夫婦などの対等な関係で問題になることだ。民主主義社会全般の原則でもある。参考にしていただけると思う。

11月 22

12月18日の読書会(午後5時から7時まで)は
『西洋哲学史要』(牧野再話、未知谷版)で
今年、ゼミの学習で出てきた思想の概略を確認します。

古代
アリストテレス 第1編 第6章(74から87ページ)
ストア派、懐疑派 第2編 第1章(90から102ページ)

中世
アンセルムス 第2編 第1章(133から136ページ)

近世
デカルト 第1編 第3章(165から174ページ)
スピノザ 第1編 第4章(175から184ページ)

以上を取り上げます。

全体で50ページ弱です

本は購入することを奨めます。
今後、哲学史は私たちの前提になります。

なお
初めての参加者には、事前に「自己紹介文」を書いていただいています。

 1. 簡単な履歴(年齢、大学・学部、仕事など)
 2. 何を学びたいのか
 3. どのようにこの学習会を知ったのか、なぜこの学習会で学びたいのか
 
などを書いて、以下にお送り下さい。

E-mail:
  sogo-m@mx5.nisiq.net

11月 09

高校作文教育研究会は、一昨年秋から2年ほどの予定で、会のテーマを「聞き書き」として、聞き書きの可能性、授業で実践する際の具体的手だて、その課題などを検討しています。

この間、私たちの例会や全国大会に、各地の中学、高校のすぐれた実践家10数人ほどをお招きし、みなで共同討議をしました。聞き書きに関するさまざまな課題について、生徒作品を丁寧に読みながら、具体的に考えてきました。

その成果は、昨年6月から雑誌「月刊 国語教育」に連載中です。

さて、連載も来年の三月までとなり、いよいよ全体の総括をすることになり、11月3日に、総括座談会を行いました。

そのために提出したレジュメを以下に発表します。

なお、当日、私のレジュメの二について、
「主観的心情」や「主観的感想」をレポートに書くことをめぐって意見交換があった。

これについては、物理学者だった木下是雄氏の『理科系の作文技術』(中公新書)が有名だ。そこでは「主観的な感想」を排除することを求めている。
「理科系の仕事の文書」とは「事実(状況をふくむ)と意見(判断や予測をふくむ)にかぎられていて、心情的要素をふくまない」。その中には、「原則として『感想』を混入させてはいけない」のだ。

これについては、『理科系の作文技術』として論考をまとめ、2010年4月13日のブログで紹介した。

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「聞き書き」の総括座談会のために
2010/11/03  中井浩一

一  表現指導の体系
  他者理解
              現実社会(特殊)客観的
調査をもとに意見をまとめる
説明、意見文

自己理解(主体的)
     個人的体験(個別) 総合(一般的知識=普遍)
描写の作文 志望理由、論文

※3年間であり、1年間でもあり、毎回の作文の3要素でもある
※毎回、内容面と形式面で、少ない課題を確実にこなしていく
※内容で、題材の表などを用意したらどうか

二 取材、インタビューの2種
(1)事実(データ)と対象(社会問題や自然科学の問題等)が中心。
調査は事実収集が目的。(社会科や理科のレポートや論文)
1.事実(データ)と対象が主で、語り手は副。データを持っていれば基本的には誰でも良い。

2.問いが個別具体的に明確で、答えを出すのが目的。

3.社会問題や自然科学の問題

(2)人生や経験、生き方が中心(国語科が引き受けることが多い)
1.語り手が主、事実と対象は副。語り手の視点、語り手の価値観が大きい。
対象や事実は語り手による理解(感情を含む)を通してしかわからない。両者の間にズレがある。
どう語ったか、どう表現(感情を含む)したか。そこに語り手の価値観が出る。
物語化が起こりやすい。

2.問いあるが、答えはすぐには出ない。

3.人生とは何か、どう生きるべきか。戦争とは何か、働くことの意味とは何か、といった大きなテーマが問題になる

(3)国語科の役割 ※これが重要
 普通には(2)だと思われているが、(1)と(2)は完全には切り離せない。国語科は全体の指導すべき

三 聞き書きの根本的な本質。その可能性と問題点。
(1)「聞くこと」と「書くこと」が一つになっている。
1.「聞くこと」              
             対象 
   聞き手(自分)         語り手(他者)
※「他者」や現実社会に直面する
2.「書くこと」      対象

    書き手(自分)         読み手(他者)

(2)矛盾  その可能性と問題点
1.普通は、語り手=自分=書き手。主体が1人。

2.それに対して、聞き書きは、語り手と書き手が違う。主体が2人いる。
話し手、語り手の表し方。聞き手、書き手の表し方。ここに問題が起こる。

四 表現一般の2種類 ※日本作文の会の「定式」との関係
(1)描写
対象のイメージが浮かぶ。直接的で五感でとらえ、読者の五感に訴える。
書き手の対象との一体化

(2)説明
間接的で、対象は一般化されてとらえられ、意味づけされる。

(3)普通は両者をともに使用する。必要な場合わけで、両方が使用できるようにしたい

五 「聞き書き」の表現上の2種類。
(1)説明風
1.「私の父は…と語った」。「程塚氏は、…と語った」。

2. Q&A 方式もある。

(2)1人語り。これは二の(2)に特殊な形式

(3)聞き書きの発展形として、ルポや一般化した論文、小説や物語がある
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